2025年3月22日土曜日

小川糸『ライオンのおやつ』ポプラ社、Audiobook版。→Kindle版へ。ポプラ社、2019年。

  これは、ノーマークで聴いた小説でしたが、よかった。本当によかった。

 病に冒され、ホスピスで生活することになる雫さん。なんというか、否認から肯定へ、死にゆく人の感情なんて、どうして小説にできるのか、そういう疑問すら浮かんでくるような、本来すさまじい感情の渦を、新しい出会いや食物や生活、サービスの価値や本質に触れることで気づいていくような仮定を、静かに、落ち着いて、淡々と、熱く激しい感情を包み込んで許していくような小説でした。もう一度読みたい。 

 読んでみた。聴くのとは違う感覚だけれども、文書ににじみ出る人の感情の繊細でいて微妙なことも、文字と行間で発しているようにも思える。人が、何かに気づき、その人が代わっていく、言葉にすると陳腐な表現になるけれども、実際に自分が変わっていく様子を記述するなら、理想的にはこういう書き方になるのだろうな、と思える表現がちりばめられている。その言葉遣いに、素直に脱帽した一冊でした。