・ぶっ飛びすぎず、「きっとその辺にいるんだろうな」という人物が物語を展開する。
・「あるよね」の範疇を外へ押し出すような「やってくれたな(にやり)」というエピソード。
・大筋の随所随所に差し込まれる、くすりと笑える「常識人の叫び」のようなつぶやき。
・ちょっと変わった普通の人たちの等身大のやりとりが織りなす、まきこまれながら何か元気になっている物語。
というあたりでしょうか。
成瀬シリーズは関連しながら時系列は進んでいる短編集、他2編は長編?になるのでしょうが、一貫して流れている宮島ワールドは、元気な時に読んでも前向きに面白いし、疲れた時にも外から元気がしみこんでくるようにじわじわと身体を暖めてくれるような文字列が心地よい。「いみじ!」とか、多分流行らないけれども、どこかで使ってみたいと思えてしまう。
○『成瀬は天下を取りにいく』2023年。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」(No.16)から始まる短編集。西武大津店の閉店を個人で応援しようと、西武ライオンズのユニフォームを着て「閉店まであと○日」と、ローカルニュース番組に映りこむ…という行為に巻き込まれる成瀬の友人である島崎。島崎の視点で語られる成瀬の人物像には、ついつい引き込まれてしまうような魅力が詰まっている。小学生の卒業文集に書いた将来の夢が「二百歳まで生きる」とか「大きなことを百個言って、ひとつでも叶えたら『あの人すごい』になる」など、突飛な発想と思いがちだけれども、なんとなく「…そうかも」と思ってしまうような力強さのある成瀬あかりが、地元滋賀県の膳所(?)という町で縦横無尽に活躍する様子を描く物語。
○『成瀬は信じた道をいく』2024年。
成瀬シリーズ2作目。期待値は上がっていたが、それを上回って更に加速する成瀬あかりの活躍を描く。成瀬に巻き込まれていく膳所の住民、家族、友人。地元の小学生も、ちょっと生きづらかった人たちも、成瀬と関わってもう少し元気になっていく様子が描かれる。成瀬のペースに巻き込まれているのに、どこか楽しそう。「びわ湖大津観光大使」に選ばれた成瀬の活躍も見逃せない。私のイチオシは、語呂合わせ「コンビーフはうまい」だった。Audiobookで通勤途中に聞いていておもわず噴き出してしまったのを思い出した。
○『婚活マエストロ』2024年。
婚活パーティー企画運営会社ドリーム・ハピネス・プランニングに、ひょんなことから関わることになった、40歳猪名川健人と実質パーティを取り仕切る鏡原奈緒子さんが繰り広げる人間模様を描く作品。パーティーに参加する人たちの一癖も二癖もあるやりとりと、そこに垣間見えるそれぞれの思いや悩み、期待など、様々な感情をとりしきる鏡原さんと、それをサポートすることになってしまう猪名川さん。ラブコメ要素もふんわりほっこりで思わずほほえましい気持ちになってしまう。そんな本筋に高野社長が入れ込んでくる小ネタの一つ一つにもインパクトがあって、とにかく面白い一冊でした。Audiobook版の感想にも書いたけど、舞台が私の故郷静岡県浜松市というのも高ポイントでした。
○『それいけ!平安部』2025年。
期待と不安が渦巻く高校入学。初日に前の席の子から「ねぇ、あなた。平安時代に興味ない?」(No.37)と言われたら、どんな反応になってしまうだろう。そして、戸惑っていたら「あないみじ…これ、運命の出会いだよ」と言われてしまったら…という冒頭エピソードのインパクトが強い。あれよあれよと流され、出会い、更に流されるままに様々な取り組みに巻き込まれ、戸惑いながらも楽しんで、学園祭へ臨む、そんなありがちな高校生を描く物語。個性的な部員たちの、ちょっとずつ常識の範疇を内から外へ突き続けるような、軽快でありながら、どことなくほほえましくなってしまうのが大変心地よい。
○『成瀬は都を駆け抜ける』2025年。
いやぁ、とてもすがすがしい読了感だった。2025年最後の日に、こういう小説を読んで締めくくれるのはきっと幸せなことなのだろう。大学に入学して、新たな人間関係の中でさらにいろんな人が元気になって、締めくくりはやっぱり島崎でした。とある事が起こって、膳所に帰ってきた島崎が、知人から成瀬の活躍を聞いて一言「このまちには成瀬がいるのだ」(187ページ)とつぶやくくだりが、一言で三部作の成瀬の活躍を表現しているなと、見事な表現に思わず手を打つ。そして、私と同じようなことをやはり一言で「思えばきのうから会う人会う人、みんな成瀬に照らされている」(212ページ)と表しているところが、やっぱり小説ならではの読み応えだと思った。
どの小説も、楽しく読めて、自分まで少し元気になったような気になれる小説でした。
(2025年分)