沖縄をフィールドにする研究者上間氏による、風俗業を生業とする女性たちの生活を描くもの。社会学的な学術分析が加えられたフィールドリサーチです。
本著でとりあげられた女性たちが、「沖縄人ならではの行動」をとっているかというと、そうとは言い切れません。おそらく、日本のどの街にも似たようなことは無数にあり得るのだと思います。そうした厳しい状況におかれている女性たちへの膨大なインタビュー、調査によって執筆された一冊です。
ただ、本著の特徴を私なりに表すなら、沖縄出身の著者が、沖縄で研究活動(社会活動にも近い動き方をしているが)を行ったことにより踏み込めたことがある内容と言えるように思います。沖縄ならではの家族関係と思われるような記述も随所に見られます。そして、そうした沖縄で生活する女性たちの行動を理解し描くにあたっては、著者の背景が少なからず影響していると思われました。
この手の女性を描くルポルタージュによくある、配偶者やパートナーからの暴力、他人が見て良いとは言い難い家族関係、希薄なのか偏りなのか判断つきかねる友人関係、行政サービス・民間支援サービスとの未接続、こうした背景に本人の知的能力の低さがうかがえる言動が見え隠れすることなど、調査から感じたことをうまく描き出しています。よくよく読むと(聴くと)、言動の質は男女差があるとはいえ、社会的な背景まで読み解いていくと、性差による違いを超えた共通点が見え隠れします。「男女差」ではなく、「生活者」という視点から見える背景は、結局行政サービスの未整備だけでなく未接続、という事実が浮かび上がってきます。自治体職員の私としては素直に学ぶべきことだと思いました。ここまで深めてみてようやく、そこに性差をきちんと事実として把握しなければ、有効な支援、というのは設計できないでしょう。このことを強く感じた一冊でした。
暴力的な言動があったとしても、それでも関わってしまうという「共依存」関係へのアプローチ、傍から差別的と見えても、それをもって関係が変わらない家族関係。その土台に「孕む」存在である女性という事実が関わってきます。沖縄という土地の特徴ともいえる低賃金、シングルマザーとして生きるための生活の糧の確保、支援者がこうした複合・複雑な「ヒト」と関わるために最低限必要なのは、何度「予想外」に直面しても「かかわりあい続ける」ことしかないでしょう。複合・複雑で先が見えない状況にあっても、まず目の前のことに取り組んで、まず一つ解きほぐしていく。次に出てきた課題にまた取り組む。時に二歩進めずに三歩下がることがあったとしても、「裏切られた」と思ったとしても、再び自分の前に表れたら、その時からまたやりなおす。そのやりなおしはゼロでないかもしれない、マイナススタートかもしれない。それでも何度でもどれだけでもかかわり合うことでのみ、その人にとって救いになり得るものだと思います。
その人にとってたとえ筋にならない一点でも光に見えるのならば、それが希望になる。そう思って関わり続ける、立場を変えて支援を設計する、そういう気概がつながった時に、いわゆる「不幸」が一つずつ減っていく、そんなイメージが「かかわりあう」ことの本質だと思いました。